茅ヶ崎は、いつからコーヒーの街になったんだろう。
茅ヶ崎と聞いて、最初にコーヒーを思い浮かべる人は、たぶん少ない。
海があって、サザンがいて、サーフィンの街というイメージがある。
ところが調べてみると、自分で豆を焼いている店が、街のあちこちにある。
しかもやり方が、店ごとにまるで違う。
生豆から選ばせる店。焙煎の秒数を客に決めさせる店。注文を受けてから焼きはじめる店。
これは、ちょっと気になる。
焼き方まで、こちらに近い
コーヒー豆を買うとき、ふつう選ぶのは「どの豆か」までだ。
焙煎は、店の奥で誰かが済ませておいてくれる。
茅ヶ崎には、その手前の工程を客の側に寄せている店がいくつかある。
美住町のJOHN DEE COFFEE ROASTERSは、「茅ヶ崎珈琲倉庫」という名前も持っている。
店頭に、焙煎済みの豆は置いていない。
並んでいるのは、農園や産地を限定したシングルオリジンの生豆。客はそこから選び、焙煎の度合いを160秒から230秒のあいだで指定する。
熱風式の焙煎機を使いはじめて、20年になるという。
秒で、焙煎を頼む。
そういう買い方があること自体、あまり知られていない気がする。
駅の南口から少し歩いた共恵のCRUISE TOWN COFFEE ROASTERSでも、選んだ生豆をその場で焙煎してもらえる。
使っているのは、30グラムから焼ける熱風式の焙煎機。焼いた瞬間から豆の劣化は始まるので、必要な分だけ焼く。そのための選択だそうだ。
南湖の珈琲焙煎屋 ビーンズ香房 Cafe Tasseは、持ち帰りの豆も店で出すコーヒーも、注文を受けてから焙煎する。
3軒とも、焙煎を店の奥で終わらせていない。
ここが最初の発見だった。
同じ「コーヒー屋」ではない
焙煎の話だけでも違いはある。でも店の考え方を追っていくと、その差はもっとはっきりしてくる。
CRUISE TOWNがいま立っている場所には、以前、同じオーナーが営む飲食店があった。そこでコーヒー豆の輸入販売も15年続けていた。
オーナーの篠田さんは、フェアトレードを行うNGOで各国からの輸入に関わっていた人だ。
その経験を下地に、2022年1月、スペシャルティコーヒー専門のロースターに業態を変えた。
目標として挙げているのは、生産者と直接つながる継続的な取引。豆がどんな場所で、どんな人の手でつくられているのかを、もっと客に伝えたいという。
店頭では、豆をハンドピックで2回選別している。
浜須賀の自家焙煎珈琲屋 XAYMACAは、2021年11月に開いた店だ。学園通り沿い、鉄砲通りとの交差点のすぐ近くにある。
店主は、東京の老舗カフェ・バッハで経験を積んだ人。
仕入れた豆を一粒ずつ確かめて欠点豆を除き、焼いたあとにもう一度確かめる。
店名は、ジャマイカの先住民の言葉で「森と水の大地」という意味らしい。
ここ数年は、別の流れもやってきている。
幸町のWeave Coffee Roasterは、2025年10月に開いた店だ。
店主の吉野さんはパティシエとして飲食の世界に入り、オーストラリア・メルボルンでバリスタとして修業した。
扱う豆はすべてシングルオリジンとして仕入れ、浅煎りから深煎りまで幅広く揃える。
吉野さんによると、メルボルンには朝5時台からコーヒーを求めて人が集まる文化があった。その魅力を地元にも伝えたい、と話している。
店名の「Weave」は「紡ぐ」の意味だ。
一中通りのSESSION COFFEE BASEも、メルボルンでキャリアを始めた店主の店。
2022年に青いキッチンカーで始まり、2025年の夏に実店舗を持った。
平日は朝7時から開けている。出勤前にまずコーヒー、というメルボルンの習慣を引き継いでいるそうだ。
店名の「SESSION」は、会話のこと。客と話しながら、その人に合う一杯を提案するスタイルをとっている。
若松町の27 COFFEE ROASTERS CHIGASAKIは、自分たちを「毎日のコーヒーと人に寄り添うお店」と紹介している。
27はホンジュラスのコーヒーをコンテナ単位で自社輸入していて、豆の背景が見える店のひとつでもある。
産地から考える店。系譜を持つ店。よその街の朝の習慣を持ち込んだ店。
並べてみると、同じ「コーヒー屋」という言葉でまとめるのは少し乱暴な気がしてくる。
駅前だけじゃない
もうひとつ気になったのが、店の場所だ。
共恵、幸町。ここまでは駅のすぐ近く。
そこから一中通りの東海岸、鉄砲通りに近い浜須賀、南湖、美住町、若松町。
店は駅前に固まっているのではなく、住宅地のあちこちに散らばっている。
2022年からは、「Takasuna Greenery Coffee Festival」というイベントも開かれている。
高砂緑地や商店街に出店を点在させる、分散型のコーヒーフェスだ。掲げているのは「非日常より日常」「密集より分散」。
2025年には、CRUISE TOWNとSESSIONも出店していた。
店の散らばり方と、イベントの考え方が、なんとなく重なって見える。
海は、どこに出てくるのか
ここまで書いて、まだ海の話をほとんどしていない。
もちろん、まったく出てこないわけではない。
XAYMACAは海まで歩いて7分ほどで、テラスにはサーファー用の椅子とボードラックがあると紹介されている。
CRUISE TOWNのブレンドのひとつ「AFTER SURF」は、朝いちばんの波乗りのあと、少し塩気の残る口をさっぱりさせる一杯をイメージしたもの。
同じ店には、茅ヶ崎の「日焼けマニア」に捧げた深煎り「TANAHOLIC」や、浜で富士山に沈む夕日を眺める時間をイメージした「SHONAN SUNSET」もある。
ただ、「海があるからコーヒーの店が多い」で片づけてしまうと、ここまでの話がうまく収まらない。
NGO、カフェ・バッハ、メルボルン。店主たちはそれぞれ、どこか別の場所でコーヒーを覚えてから、この街で店を開いている。
そして店の側も、豆の選び方や焼き方を、少しずつ客に渡している。
もしかすると茅ヶ崎には、コーヒーを飲む場所が多いというより、コーヒーを自分で考えている人が多いのかもしれない。 CAME編集部の仮説
まだ仮説だ。現地で確かめたいことは、たくさんある。
いつから、の答え
タイトルの問いに戻る。
茅ヶ崎は、いつからコーヒーの街になったんだろう。
熱風式の焙煎機を20年前から使っている店がある。
ここ5年ほどで、新しい店が続けて開いている。
はっきりした「いつ」は、たぶんない。古い層の上に、新しい層が重なってきた、という感じに近い。
コーヒーの街、と言い切るつもりはない。
ただ、茅ヶ崎へコーヒーを飲みに行く。
そういう理由で出かけても、いい気がしている。
HOW THEY ROAST
INFO — 記事内で紹介した店
- CRUISE TOWN COFFEE ROASTERS茅ヶ崎市共恵1-4-16(茅ヶ崎駅南口から徒歩数分)2022年1月グランドオープン。スペシャルティ専門のロースター。選んだ生豆をその場で焙煎。オリジナルブレンドは4種。
- JOHN DEE COFFEE ROASTERS(茅ヶ崎珈琲倉庫)茅ヶ崎市美住町1-24 1階オーダー焙煎の専門店。シングルオリジンの生豆から選び、焙煎時間を指定できる。
- 珈琲焙煎屋 ビーンズ香房 Cafe Tasse茅ヶ崎市南湖4-11-16豆も店内で出すコーヒーも、注文後に焙煎する。
- 自家焙煎珈琲屋 XAYMACA茅ヶ崎市浜須賀3-5(学園通り沿い)2021年11月開業。自家焙煎。焙煎の前後にハンドピックで選別。テラスにボードラックあり。
- Weave Coffee Roaster茅ヶ崎市幸町21-32(雄三通り沿い)2025年10月開業。豆はすべてシングルオリジン。浅煎りから深煎りまで揃える。
- SESSION COFFEE BASE茅ヶ崎市東海岸南4-11-17(一中通り沿い)キッチンカー2022年10月、実店舗2025年7月。メルボルンスタイルのコーヒー。平日は朝7時から営業。
- 27 COFFEE ROASTERS CHIGASAKI茅ヶ崎市若松町17-2スペシャルティの専門店。ホンジュラスの豆を自社輸入している。
営業時間・定休日は変わることがあります。各店の最新の案内をご確認ください。
参照・引用元
- STORES|Cruise Town Coffee Roasters 篠田さんインタビュー業態変更の経緯、NGOでの経験、30gから焼ける焙煎機、ダイレクトトレードの目標。
- ふるさとチョイス|CRUISE TOWN オリジナルブレンド4種ハンドピック2回、AFTER SURF/TANAHOLIC/SHONAN SUNSETの説明。
- 茅ヶ崎 散歩|CRUISE TOWN選んだ生豆をその場で焙煎する仕組み。
- JOHN DEE COFFEE ROASTERS 公式サイト焙煎の度合いを160〜230秒で指定。
- ふるさとチョイス|ジョンディコーヒーロースターズ焙煎済みの豆を置かないオーダー焙煎、シングルオリジンの生豆、熱風式焙煎機を20年前から導入。
- 湘南ナビ|珈琲焙煎屋ビーンズ香房 cafe Tasse豆も店内のコーヒーも注文後に焙煎。
- 号外NET茅ヶ崎|自家焙煎珈琲屋XAYMACA(2022年7月)開業時期、カフェ・バッハでの経験、ハンドピック、店名の意味、海までの距離、ボードラック。
- 湘南経済新聞|Weave Coffee Roaster店主の経歴、シングルオリジンでの仕入れ、メルボルンの朝の文化、店名の意味。
- FMヨコハマ|SESSION COFFEE BASEメルボルンでのキャリア、朝7時からの営業、会話を通じた提案。
- Yahoo!ニュース エキスパート|SESSION COFFEE BASE実店舗オープンキッチンカーから実店舗へ。
- 27 COFFEE ROASTERS|アクセス・営業時間茅ヶ崎店の所在地と紹介文「毎日のコーヒーと人に寄り添うお店」。
- さんたつ|27 COFFEE ROASTERSホンジュラスのコーヒーのコンテナ単位での自社輸入。
- PR TIMES|Takasuna Greenery Coffee Festival vol.42022年開始、分散型の開催、掲げる価値観、2025年の出店者。